第1978回例会記録 ゲスト卓話 「地域の伝統を紡ぐ持続的な環境保全と観光振興の取り組み」

私は伝統的工芸品熊野筆製造会社に生まれ、幼少期より書道、茶道、生け花など様々な日本の伝統文化に触れて育ちました。その縁から伝統的な文化を守り、後世へつなげたいという想いが現在の活動の原点となっています。日本の伝統文化は後継者の育成問題などでも取り上げられるように受け継がれることが困難な状況になるケースが日本各地で起こっています。その問題意識から、同年代の日本文化の担い手の方々や芸術アーティストの方と、もっと気軽に日本文化を愛でる場所をつくり、仲間がつながり、そして末永く大切な文化が継承され続ける機運を盛り上げていくべく「My Japan -私の日本-」という団体を作りました。日本文化イベント企画やお祭りを開催し、「楽しみながら日本を学ぶ」機会を創り、活動を行っています。

この数年は日本の良さを多くの人へ伝えていくために観光へチャレンジしてきました。2020年に広島駅から徒歩10分に位置する二葉山を舞台に朝のハイキングガイドツアー「Asageshiki」が誕生しました。朝の美しい景色と朝食を意味する朝餉(あさげ)の2つの意味を込めて名付けたツアーブランド名です。朝焼けの絶景を眺めながら地元食材にこだわった朝食を味わい、野点(のだて)でほっとひと息つく、特別な朝の時間を楽しんでいただいております。

広島には「厳島神社」「原爆ドーム」など、世界的にも有名な広島を知るスポットが存在し観光客からも人気を博しています。多くの訪日観光客が訪れるようになりましたが来訪者のほとんどは日帰りで広島の滞在時間は短く、宿泊に繋がらない通過型の観光になっている課題もあります。

弊団体の理事である久保田さんが広島東照宮の権禰宜を務められているご縁から広島駅→広島東照宮→二葉山コースの「Asageshiki」構想が生まれました。二葉山周辺は宿泊施設が多く交通の便も良い。朝の時間にツアーを開催することで前日からの宿泊の契機を促し滞在時間を伸ばすことができると考えました。広島東照宮・二葉山は広島城の鬼門にあり江戸時代より広島の総鎮守として人々から愛され、広島を守ってきた大切な場所です。約400年前から城下町として発展してきた広島の歴史や先人達が大切にしてきた文化を後世に残すためには語り伝えていく必要があると思い地元ガイドの育成に取り組みました。ガイドを募集すると大学生からホテルのコンシェルジュ、移住者と幅広い人材が集まりました。特に海外からのゲストは広島の歴史に関心があり、より深く理解してもらえる場所となるように国際交流ガイドの育成に力を入れています。

ツアーの構想は出来たもののすぐにツアーを実施することが出来ませんでした。二葉山の参道が長年の雨で壊れている箇所があり登るのが困難になっていました。二葉山は豊かな原生林が残る非常に貴重な山です。自然環境を保全し、参拝する人が登りやすいようガイドと修繕作業を始めました。するとSNSを通じたボランティアの呼びかけに広島県内からたくさんの方が修繕作業に尽力してくださいました。半年かけて山道整備を行い、山頂付近の間伐により景観を整え2021年春から本格的にツアーがスタートしました。引き続き保全活動を継続していくため邁進してまいります。

コロナ禍のマイクロツーリズムの推奨もあり、初年度は広島在住の人々が参加してくださいました。意外にもツアーを体験してもらったゲストの方々からは「広島に住んでいるのにこんなに広島を一望できる場所があるなんて知らなかった」「地元広島の歴史に触れることができた」という声をいただき、報道メディアでは「広島の再発見」「駅前の秘境」と取り上げていただきました。2023年よりインバウンドが復活したことからオーストラリア・スペイン・フラン・アメリカなど欧米豪のゲストをご案内し楽しんでいただいております。

広島はかつて海だった場所に太田川から流れ出る自然の力と、毛利氏の築城以来、人の手により橋を架け、土地を造り、城下町を中心に発展してきた歴史があります。また原子爆弾により焦土と化した街を力強く復興させてきた歴史もあります。そんな広島を拠点として活動する我々は広島の想いを世界中へ伝え、世界の平和を願い、やり遂げることができると信じています。

広島の歴史や日本の伝統文化を知っていただき、若い世代や子供たちが楽しみながら興味を持ってもらい、自然と人が共存しながらこれからも長い歴史と伝統に誇りを持つきっかけづくりを担っていきたいと思っております。

どうぞ、皆様の応援とお力添えをお願いし寄稿とさせていただきます。

皆様の発展とご活躍をお祈りいたします。

一般社団法人My Japan代表理事
三村理紗