第2038回例会 ゲスト卓話「カンボジア女性の乳がん検診プロジェクト~グローバル補助金を用いて~」
広島南ロータリークラブ
井内 康輝
ロータリークラブの使命は、さまざまな奉仕活動を通して、世界中の平和に貢献することです。とりわけ国際奉仕活動は、直接他国への支援を行うことによって、その国の医療や環境の改善、経済の発展などを手助けするもので、奉仕活動の成果を実感できる点で、やりがいのあるロータリー活動のひとつといえるでしょう。
我々は、2014年度から2016年度にかけて、カンボジアにおける医療支援の目的で、ロータリー財団のグローバル補助金をえて、女性乳がんの早期発見のための検診プロジェクトを実施しました。
このプロジェクトの立ち上げに関わる経緯は、広島南ロータリークラブでは、2003年度から2009年度にかけて、カンボジアで衛生環境の改善のための井戶の寄贈を行い、2009年度から2011年度までは、他団体の主催によるササースダム小学校における⻭科検診と肝炎ウイルス測定に協力してきました。その間、カンボジア保健省の担当者と協議する機会をもち、カンボジアにおける医療支援のニーズ調査を行いましたが、その結果、カンボジアにおいては、女性におけるがん発生率が第2位である乳がんを対象とし、その早期発見のための検診が行われていないことから、その啓発活動のための活動を行うことにしました。
2012年度から2013年度ではグローバル補助金の申請や、日本からカンボジアに出向いて検診を行う医療チームの編成などに時間を要しましたが、補助金の申請にあたっては、特に、現地のニーズの有無と活動の継続性(sustainability)に加え、人道的支援としての配慮について、計画の練り直しを求められました。
2014年3月4日から7日にかけて第1回の検診を行いました。援助国側(日本)のメンバーとしては、当時の広島市⺠病院乳腺外科主任部⻑の檜垣健二先生、ひろしま駅前乳腺クリニックの超音波検査技師、ハーリー弘子氏と広島南RCの中𠮷雄二さん、熊谷宏さんと私の5名、実施国側(カンボジア)では、SvaySomana医師及び看護師3名、住⺠へのファシリテーター2名、アシスタント2名、通訳3名の計12名となりました。また、カンボジアにおけるこのプロジェクトのカウンターパートとなるプノンペンロータリークラブからは、PeterGray会⻑とFilTabayoyong氏がプロジェクト代表として参加してくれました。
検診地は、プノンペンの⻄南(100kmほど離れる)のカンポットという街であり、当地のカンポットホスピタルの感染症用の別病棟を借用できました。検診は、まず問診を行い、次いで檜垣先生による専門医の診療を受け、必要な場合(受診者の約50%)、ハーリー氏による超音波検査という流れを作りました。3月5日午後から7日午前中にかけ190人の受診があり、乳がんの疑いがある人5人を発見しました。この発見率は、日本における乳がん検診の発見率の10倍以上という高率でした。その要因は、受診者の大半がこれまで乳がんに関する検診を受けたことのない人であり、またカンボジア全土で乳がん診療専門医が2名しかいないというカンボジアの医療事情によると思われます。
第2回目の検診は、2014年12月1日〜5日に行いました。場所は、プノンペンの北東、コンポンチャムで、当地のプレイ・コールホスピタルを会場として行いました。検診を受けた人の数は250人で、乳がんの人、乳がんを疑われる人は、あわせて6名でした。2回の検診を現地で行った後、継続性を担保するために、カンボジア人の医師に検診の技術を学んでもらう計画をたて、改めてロータリー財団グローバル補助金(職業研修チーム、VTT)を申請し、認められました。2015年4月6日から16日まで、カンボジアでの検診チームであった2人の医師に加え、新たな3名の医師、あわせて5名を広島に招き、講義・実習・現場の見学などのプログラムで乳がん検診を学んでもらうことで、彼らの手でこの検診を続けてもらうことを期待しました。彼らも加わった検診がうまく行われているかを検証するために、2015年11月18日から22日、コンポンチャムで再度検診を実施しました。
検診の継続のためには、施設の確保が重要ですが、2016年5月に検診チームの中心であるDr.Somanaが、プノンペンに小さいながら診療所を開設してくれました。開所式に参加しましたが、診療所の名前に私の名前を冠して、“SotheaInaiConsultationRoom”としてくれたことに感激しました。また、この診療所と日本をつなぐシステム(LOOKREC®というソフトによるインターネット回線)を設置し、診断に困る例はいつでもサポートできる体制を構築しました。
カンボジア国内には、医療に関しても解決しなければならない数多くの問題があり、女性の乳がんのみの検診システムの導入のみでは、彼らのかかえる問題の解決にはほど遠いと思われますが、これを一歩として、医療全体の向上がはかられていくことを期待しています。
国際ロータリーでは、2024-25年度より、アクションプラン(行動計画)の推進を目標とし、各クラブにおいて3yeargoal(target)を定めて行動することを推奨しています。そのために、ロータリー財団の提供するグローバル補助金や地区補助金を大いに活用し、活発な奉仕活動が行われることが期待されます。とくにグローバル補助金については、これを申請するまでに大きな壁を感じるクラブが多いかと推測しますが、申請に積極的にチャレンジしていただきたいと思っています。