第1947回例会 ゲスト卓話「3年で子供たちに引き継ぐ明るい未来を創る」

今年4月、広島で看護師3名の看護師常駐型民間救急「ひろしまメディカル民間救急搬送サービス」を開始した一般社団法人 HAWK CSRの理事長 高橋 透と申します。今回は貴重な機会をいただき誠に幸甚です。私たち法人は理事、顧問を含めた6名と社員2名の総勢8名の小さな会社です。その中で掲げる理念は「3年で子供たちに引き継ぐ明るい未来を創る」。その中の3つとして①高齢化社会での救急車の出動増加の緩和、一次救命処置の普及、②誰かのために、の精神で広島に住まれるすべての方に納得していただけるサービスの実施、③広島介護タクシー、全国の搬送業者との発展のための連携です。

ではなぜ民間が必要と考えるのか。それは救急車の出動件数は年々増加傾向にあり、このままの体制が続けば2030年には救急隊の増員、救急車の増台等が必要になる。つまり税金対象となる消防局への予算が組み込まれる。そうなることで今の子供たちは、課税が多くなり、お金がないと夢をあきらめる子供たちに未来を残すのではなく夢を語れる未来を引き継ぎたい、と感じているからです。

私自身は京都で育ち、20代は「数々な職種、人ありたいことに触れること」に熱中し京都産業大学を中退。その後、広島に移住して半生以上が経過しており、海・山に囲まれた広島の地に魅了されております。幼少の時は体が弱く、母の勧めでスイミングスクールを始め、成人してからは「人を助けたければ精神を鍛えるべき」と解釈し、トライアスロンやウルトラマラソンにチャレンジ、現在はライフセービング活動や赤十字救急法の普及活動、水難事故の予防活動として、小学校等の授業に招いていただき、指導も行っております。

その中で、子供の頃からの母親の言葉「やりたいことは思いっきりやりなさい。やったことの責任は自分で取りなさい。」が大きなメッセージとなっております。母親の言葉を胸に、今までチャレンジした分、失敗した経験は成長につながる。その中で民間救急が自分にできる「困った人を助ける事業」と確信しております。

現在の救急車の出動状況ですが、2025年問題、2040年問題、コロナウィルスにより救急車の出動件数は増加し続けております。消防局の発表では令和2年度は異例であり、コロナウィルスの影響によるものか救急車の出動件数は減少しております。そんな中、救急車の出動要因として問題となっているのが「転院搬送」です。転院搬送とは、病院から病院、病院から介護施設、介護施設から病院といった搬送を指します。消防局はこの転院搬送を「準救急」として転院搬送による救急車の抑制を呼びかけている中、総出動の約1割を例年占めております。つまり、転院搬送は、ご自宅での急病、交通事故、一般負傷といった「救急」とは異なる出動としてされております。そこで重症でない患者様の搬送を担えるのが民間救急です。全国的には、コロナウィルスの影響でここ2年の間にコロナウィルス感染患者の搬送を担う民間救急がメディアを通して注目されております。広島では民間救急は、行政も認知がされておらず、体制導入に至っておりません。

#7119というダイヤルをご存じでしょうか。平成30年から31年にかけて広島でも導入された「救急車の相談ダイヤル」です。ご説明を付け加えますと、ご自宅で容態が変化した時、「救急車を呼ぶべきだろうか」と相談できるダイヤルになります。現在プロジェクト発起の方から行政と民間の協定を法人としてお話をいただき、来年初期を目標に広島市の#7119との連携体制に向けて準備を整えております。

看護師になったキッカケとしては、建築作業員から結婚を機にALSOKに転職しました。ホームセキュリティが普及するにつれて、在宅で人の手を借りたい多くの高齢者を見てきました。例えば、呼び出しボタンで出動し、訪問すると、家に一人でお住まいのベッド生活の高齢者がお部屋を這っておられました。「トイレに行きたい」と紙おむつを下げた状態で、部屋中には失禁された便で汚染されておりました。何も知識のない自分自身は何もできませんでした。警備員としては身体の介助にも制約があり、何もできないまま、ただ訪問の介護士さんに電話で説明だけ行い、介護士さんが来られるのを待つことしかできませんでした。ただ突っ立っていた自分自身が情けなく、悔しく涙したことを忘れることはありません。その後35歳で看護学校に入学し、看護師となりました。

看護師になり広島大学病院に入職を希望し集中治療領域から学びました。その後は一般病棟に異動し5年で退職。安佐医師会訪問看護ステーションで看護師として在宅看護の実情を1年半学びました。看護師になった目的は明確であったため学習を続けることを一度も苦に思うことはありませんでした。明確であった目的とは「在宅に戻って過去に地域で困っておられても助けることができなかった方たちに恩返しをする」の一心です。

訪問看護でも様々な現場に居合わせました。老々介護をされており夜間に骨折の疑いで呼び出しもありました。訪問看護では搬送はできない上、家庭にはご家族が連れて行ける車両もなく、救急車の要請は避けたいと想いもありながら救急車を要請することもありました。「搬送を必要とされている在宅療養者やご家族」は想像以上におられました。だからこそ、今までの人生の経験をもとに、看護師として広島の街を迅速に走行し、困った人に寄り添えるのは自分しかいないと捉え、民間救急を開始する決意をしました。全国でも「看護師による民間救急」は未だ発展途上段階であり、経営については多くの方々のご教示により学習しました。とはいえ、人生もちろんいいことばかりではないと理解しております。

広島に来てからはホームレスからスタートしたり、人生で2度の離婚を経験したり、ハニートラップにかけられたり、どうしょうもない人生です。事業開始後も認知されていない業種に対しては「絵にかいた餅」として金融機関とのお話では見向きもしていただけず、「論語とそろばん」と言われる中、金銭的にはスタート当初から非常に厳しい状態になることを覚悟し開始しました。かといって「今必要とされている事業」であるため、今しかないと捉えております。私たち法人の看護師はDMAT隊員、多くのインストラクターの資格を持ちながら、うつ病で働けなくなった男性、物事には挑戦せず、自分を変えずに生きていくと決め、逆境を乗り越えられないことにストレスを感じ、乳がんを患った女性の3名で編成されています。看護師として人に携わり貢献する喜びを感じることで、もう一度心の健康を取り戻し看護師として生きがいを取り戻してほしいという想いがあったからです。正直、「泥船は沈む」と多くの方に言われました。そんな2人の社員と向き合うことで、仕事の喜びを覚え、少しずつ変化・成長をしております。

多くの失敗があったからこそ成長し、今後の可能性も見えてきております。#7119との行政連携のお話や、広島初めてとなる海のスポーツイベントでの民間救急の救護車両導入といったお話もその一つだと捉えております。夢を追っているからこそ、多くの壁があって当然であり、成功させるべき夢・事業だからこそ「あきらめない」の一言の毎日の連続です。

経営面では、全国的に民間救急事業は非常に厳しいとされております。車両、人員整備が必要な上、ケアが必要な方になればなるほど、搬送依頼がキャンセルになる事も多い現状です。そこで広島の事業需要の調査・分析を開始前に行いました。救急車の転院搬送による出動では、施設内の医師・看護師が同乗するように消防局の条文で規程されており、搬送に同行すれば病院内のマンパワー不足となるため、信頼できる民間救急が代行されれば病院内の患者様の生命に携わることができると、多くの医師からご意見をいただきました。民間救急は緊急車両ではなく、タクシーです。つまり、搬送による運賃・人件費・介助料で成り立っております。さらに民間救急は2名体制となるため、患者様の負担も介護タクシーより高額になります。

そこで全国で初になる病院・介護施設との契約型の民間救急にチャレンジしました。運賃以外を施設側で月型契約していただくことで、患者様からは介護タクシーと同様の金額しか請求しないという内容です。現在1箇所がご契約、来年度には北部医療センターも検討課題としてあげて下さっております。

最後にもう一度、理念を強くメッセージさせていただかせていただきます。私にはもうすぐ社会人となる連絡をとっていない、どこにいるかも不明な子供がいます。「3年で子供たちに引き継ぐ明るい未来を創る」。実は実の子に伝えたいメッセージでもあります。

その中で私たち法人は①高齢化社会での救急車の出動増加の緩和、一次救命処置の普及、②誰かのために、の精神で広島に住まれるすべての方に納得していただけるサービスの実施、③広島介護タクシー、全国の搬送業者との発展のための連携を目指しております

どうかこの度の機会を頂いた上、厚かましい事は承知であります。どうか成功するために夢を実現させた先輩方にお力を貸していただきたいと思い本日は恐縮ながらメッセージさせていただきました。

改めてこの度は貴重なお時間を私のような者に与えて下さり、誠にありがとうございました。

一般社団法人 HAWK CSR
ひろしまメディカル民間救急搬送サービス理事長
高橋 透